2005年01月30日

権力者が自らを予見するのは難しい(2 海老沢勝二氏の場合)

 NHKの海老沢勝二前会長が顧問就任を辞退した。「顧問就任を辞退」などと言うと自発的なように聞こえるが、要は顧問就任に対する批判が予想を大きく上回り、「辞任」に追い込まれたというわけだ。

海老沢前会長ら3氏、NHK顧問辞任
 NHKの橋本元一新会長(61)は28日夕、緊急記者会見を開き、海老沢勝二前会長(70)、笠井鉄夫前副会長(63)、関根昭義前放送総局長(62)の3人が「顧問就任を辞退し、それを了承した」と発表した。NHKはこれまで「3氏は26日付で顧問に就任した」と説明していた。3氏の顧問就任に対して視聴者から抗議や批判が殺到しており、橋本会長は「顧問の委嘱が結果的に悪い影響を出したことについては反省している。状況を悪化させた」と話した。顧問制度は廃止する方向で検討するという。

 海老沢前会長ら3氏は25日、一連の不祥事に伴う受信料の支払い拒否・保留の急増で引責辞任した。翌日、顧問に就任した。

 NHKによると、海老沢前会長らの顧問就任が明らかになった後の27日と28日の2日間に、視聴者からの電話やメールによる抗議や批判の意見が6500件にのぼった。ほとんどが「おかしい」などという内容だった。橋本会長は「クレームが来るのではないかと予想はしていましたが、こんなに大きな波とは」と見込みが甘かったことを認めた。

 橋本会長の説明によると、海老沢前会長らに対しては、慣例によって機械的に顧問を委嘱したという。橋本氏は「内外の役職の引き継ぎもあり、業務の円滑化を考えた」などと説明した。

 海老沢前会長の影響力が残るのではないかという懸念がNHK内外から出ていたことには「顧問は経営の権限はない。私自身が経営方針を打ち出して改革を実行していく」と否定した。

 抗議や批判が増え続ける中、28日午後に「海老沢前会長ら3氏から顧問就任の辞退申し入れがあった」という。橋本会長は「ご自身からのご辞退というほか、申し上げることはございません」と述べた。慰留はしなかった。
朝日新聞 2005/01/29


 それにしても、ほとほとあきれてしまう。海老沢氏とそのとりまきには「都合の悪い情報」や「視聴者からの生の声」はまるで届いていないのだろうか。

 昨年9月に海老沢氏がが不祥事の説明をするため参考人で呼ばれた衆院総務委員会を、NHKは生中継しなかったことで、彼への批判が噴出した。それ以来、批判にさらされ続けていたにもかかわらず、「顧問に就任したら、これまで以上の批判を受ける」ということを想像できなかったわけだ。

 だが、こういうケースはこれまでにもよくあった。「海老沢氏、顧問辞任」の記事を読みながら「どこかで聞いたような話だな」と記憶をたどっていたら、思い出した。日本経済新聞のケースだ。

 日経で不祥事が続いた後、社長だった鶴田卓彦氏はもいったん会長になったが、その後1年あまりで会長から相談役に、最後には相談役からも退かざるを得なくなった。ちなみにこの二人、ともに茨城県出身で早稲田大学の卒業、横綱審議委員会の委員をしていたという共通点がある。
posted by KH at 14:27| Comment(0) | TrackBack(2) | 時事・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

権力者が自らを予見するのは難しい(1 堤義明氏の場合)

 27日の記事「尻馬に乗って元・権力者をたたく」で引用した橋本大二郎氏のブログ「去りゆくドンたち」を読んでいて面白いと思ったのは、堤義明氏が7月の時点で「パリーグの球団合併で、プロ野球は1リーグになる」ことを疑っていない点だ。

 まさに、その同じ日に、奇しくも堤さんからも、電話をもらったのですが、その内容は、プロ野球の再編に絡むもので、「パシフィック・リーグの球団合併は、将来は1リーグ制に向かわざるを得ないので、その際に出来てくる、3軍の選手の受け皿づくりを、四国独立リーグの立ち上げを目指している石毛(元オリックス監督)と、話しあってみてほしい」といったものでした。

 ここで橋本氏が「その同じ日」と言っているのは昨年の7月15日。プロ野球オーナー会議で堤氏が「パシフィック・リーグでもう1組の球団合併が進行中である」と発言したのが8日のことだから、それからまだ1週間しかたっていない時点で、プロ野球は1リーグ10球団になるから、石毛氏の独立リーグを受け皿として想定していたわけだ。

 実際には、彼らが想定したダイエーとロッテの合併が不調に終わる。それだけでなく、選手会の反発、初めてのストライキ、選手会を支援し球団経営者側を非難するファンの急増、楽天の参入、ソフトバンクによるダイエーの買収――などを経て、プロ野球は今季も2リーグ12チーム制を維持することになった。

 おそらく7月の時点で、堤氏はこんなことになるとはつゆほども考えていなかったに違いない。それは堤氏だけでなく、巨人の渡辺恒雄オーナーも、オリックスの宮内義彦オーナーも、「1リーグ制こそ進むべき道」と考えた球団経営者は同じように現在の状況を思いもしなかったはずだ。

 だれでも自らの将来を予想することは難しい。だが権力者は、権力者であるが故に「自分が正しい」と思っていること以外の情報が耳に入りにくくなる。物事が従来通りの枠組みで進んでいる時はそれでも困らないが、昨年のプロ野球界のような「転換点」に差し掛かった時、「都合の悪い情報が耳に届かない」ことが大きなマイナスになる。そういう状況に置かれた権力者が自らを予見することほど、難しいものはない。
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2005年01月28日

森の時計はゆっくり時を刻む

 「森の時計やゆっくり時を刻む」というのは、フジテレビ系列で年明けから始まったドラマ『優しい時間』のキャッチコピーだ。昨晩放送の第3話「初雪」は、まさしく「ゆっくり時を刻む」展開。大きな事件が起こるわけではないが、1つ1つの現在と過去の小さなエピソードを積み重ねていくことで、登場人物たちの心情が視聴者にじんわりと伝わってくる。

 富良野と美瑛が舞台の倉本聰脚本のドラマといったら、どうしても『北の国から』を思い出す。実際、今回の『優しい時間』も美しくも厳しい北海道という舞台、「父と子」という主題、脇役的登場人物(電気店を経営するという布施博のキャラは、ほとんど『北の国から』のままでは!)という共通点はあるものの、『北の国から』とはテイストの違った物語になっている。

 主人公、涌井勇吉役の寺尾聰、いい味出してますな〜。自分のことをほとんど語りたがらない、ある意味では不器用な勇吉役にぴったり。梓役の長澤まさみはうまい。拓郎役の二宮和也は「いまの時代の男の子」という感じがして、その役柄にリアリティーを感じられる。

 『北の国から』は最も好きなドラマの1つだが、後半の何本かでは、文明に対する批判というか呪詛の要素(例えば携帯電話などに対して)が強すぎて「倉本聰、ちょっと古いんじゃないの?」と考えてしまうこともあった。だが今回のドラマでは、そういう「くささ」もほとんど感じない。

 オフィシャルサイトのキャスト&スタッフページを見ると、倉本聰は原作・脚本となっていて、そのほかに吉田紀子、田子明弘、小林彰夫という3人が共同脚本という形になっている。おそらく倉本聰の富良野塾での弟子筋にあたる人たちだと思うが、『北の国から』に比べ若者の描き方が自然だと思うのは、彼らが入っているからだろうか。

 あと特筆すべきは音楽の良さ。エンディングで平原綾香の「明日」が挿入されるシーンは、常にジーンと来てしまう。倉本聰は平山がこの曲をテレビ番組で歌うのを偶然耳にし、ドラマの主題歌は「明日」しかないと即座に決定したというのも、肯ける。

 これからも楽しみだ。
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2005年01月27日

尻馬に乗って元・権力者をたたく

 少し前のことになるが、週刊文春の1/27号に「渡部絵美衝撃告白 私を弄んだ堤義明」という記事が出た。その新聞広告を見た時、「なんで、このタイミングで言い出すのだろう?」と思ったのは僕だけだろうか。

 実際の記事を読んでみれば、彼女が堤義明氏から「俺の女になればリンクの一つや二つはやるぞ!」と言われて、新宿プリンスホテルのベッドに押し倒されたことが、彼女の深い傷になっていたことはわかる。自分の権力とカネを持ってすれば、どんな女性でも自分の思い通りになると考えていただろう堤義明氏を弁護しようとも思わない。

 だが西武鉄道の虚偽記載問題で堤氏が経営から退き、世間からボコボコに西武グループ、堤家がたたかれている時になってレイプ未遂問題を持ち出したことに、いささかの違和感を感じるのだ。もし彼女が堤義明健在の時にこのことを告白したら、その勇気をたたえるのだが。

 NHKの海老沢勝二会長にしろ、ダイエー創業者の中内功氏にしろ、そして堤義明氏にしろ日本の経済界などの権力者が権力の座から離れた途端、転げ落ちるように転落してしまうのは、こうした日本人に「尻馬に乗って元・権力者をたたく」という傾向が強いからではないかとも思う。

 権力を持つ時にはお追従を言い、権力者でなくなった途端に、意趣返しをする。こうした行動を取る人は多い。その気持ちがわからないわけではないが、見ていて気持ちのいいものではない。

 そんなことを思っていた時に、高知県知事、橋本大二郎氏のブログで、野球の四国独立リーグを立ち上げた石毛宏典氏の話を読んだ(「去りゆくドンたち」)。
 橋本氏は次のように書いている。

 堤さんの際立ったワンマンぶりは、2人の共通の思い出ですが、石毛さんが、鈴木宗男元議員を最後まで支えた、松山千春さんのことをあげて、「世話になった人たちが、手のひらを返すようなことをするのは見苦しい。こういう時こそ、誰か堤さんを守る人が、出てこないものでしょうか」と言われたのが、ある種スポーツマンらしくて新鮮でした。


 僕は堤義明は個人的に好きではないが、今の時点でこう言い切れる石毛氏は男らしいと思う。
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2005年01月23日

お馬鹿で楽しい『パイレーツ・オブ・カリビアン』

 ゴア・ヴァービンスキー監督の『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』。「そういえば公開時は結構ヒットしてたよな」というぐらいの事前情報しか持たずに見てみたのだが、意外なほどお馬鹿で楽しい映画だった。

 元になっているのはディズニーのアトラクションの「カリブの海賊」。単なる子供向け映画にならずにすんだのは、主人公のジャック・スパロウ船長役のジョニー・デップの存在感ゆえか。彼ののらりくらりとした一匹狼ぶりが、最初から結末が見えている物語を面白くしている。

 えーっと思ったのは敵役のキャプテン・バルボッサとの戦いで、スパロウ船長が刺された瞬間。「やられた」と思った瞬間に、無事であるスパロウ船長を見て、スパロウがのろわれた金貨を1枚だけくすねたことが、このシーンで伏線として生きてくることに気がついた。「その手があったか!」と膝を打ってしまった。

 まあ、物語のカギを握る「金貨ののろい」については、いろいろ文句もあるみたい。確かにつじつまの合わない部分はある。おそらく、それが続編につながっていくカギにもなるのだろう。
posted by KH at 19:48| Comment(0) | TrackBack(2) | 映画・ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月22日

小説の可能性を見せられた『夜のピクニック』(恩田陸)

 ある程度本を読む人なら「この人が誉めている本なら大丈夫だろう」という書評家が何人かいるだろう。僕にとって小説分野で最良の道先案内人は小林信彦や村上春樹。さらに池上冬樹も信用している評論家の1人だ。

 その池上冬樹が朝日新聞の読書欄で昨夏に「新作にして名作。必読!」と評価していたのが、恩田陸の『夜のピクニック』だ。当然、すぐに買ったのはいいが、ぐずぐずしているうちに「本の雑誌」の2004年度ベスト1に選ばれ、世間で評価が高まる前に読んで他人に教えるという楽しみを失い、年が明けてしまった。

 昨晩読み始めて、仕事があるにもかかわらずほぼ1日で読み終えた。「夜を徹して80キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント『歩行祭』」を舞台とした小説だ。作品中で流れる時間も1日なので、それとほぼ同じ時間で読み終えたことになる。

 第1に思うのは、読み続けている時間が幸せだったということ。事件らしい事件は起こらない。血は流れない、暴力はない、セックスもない。恋愛の予感はあっても、恋愛そのものが描かれているわけでもない。あえて言えばテーマは友情や家族だろう。だけれども、読む者の心を揺り動かし、「この先はどうなるのだろう?」と思わせて、最後には登場人物を祝福できる。そんな小説だ。

 人を殺すこと、人が死ぬことや、激しい性や暴力がストーリーテリングの重要な原動力になるのを認めないわけではない。ただそのような激しさがなくても、こんなにも先を読みたくなる小説が成立するのだ。そういう意味で、小説の持つ可能性の大きさを見せられた気がする。

 ただ細かい点で不満もないわけではない。登場人物たちは主役だけでなく脇役もみな、自分という人間を把握し、周囲の友達までよく見えている。自分が高校生だった頃を振り返ってみても、ここまで周りが見えていた、物がわかっていたとは到底思えない。もっと誤解と焦りとうぬぼれに満ちているのが、本物の高校生活ではないか。

 そういう意味では、この本に出てくる登場人物たちの心情は、大人(作者)が自分の高校生の頃を振り返り、一つ一つの行動の裏にあった性格なり意味なりを深く掘り下げた上で描き出した「心情」のような気がする。
posted by KH at 14:43| Comment(3) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月21日

増田真樹著『超簡単!ブログ入門』を読んで、ブログを立ち上げた

 近所の本屋の平積みで見つけたのがこの本(増田真樹著『超簡単!ブログ入門』)。アマゾンで検索すると、ブログ関係の入門書はたくさん出ているし、実は僕も1冊買って、部屋に積んだままになっている本もある。

 副題は「たった2時間で自分のホームページが持てる」。僕はこの本を読んでいる途中でブログを立ち上げたのだから、まさしくこの副題通り。

 でもそれよりも重要なのは、ブログをこれまで知らなかった人にも、その意義や効能、楽しさなどをわかりやすく、かみくだいて伝えられる本だということ。それがこれまでのブログ入門書との差だと思う。

 中に検索エンジンの米グーグルがブログを使って車内を活性化させた事例があるが、こうした事例を通してブログの意味を語ろうとしている点が、他の本とは一線を画すところだろう。

 著者のサイトによると、10歳の頃からソフト会社を立ち上げアーケードゲームやアドベンチャーゲームを何十本もつくり、巨額のお小遣いを得てきた人だという。そういうばりばりコンピューター系のところから出発した人なのに、これだけIT音痴にもわかりやすい入門書を書けることは、大した才能だと思う。

 いろいろな意味で、良書です。
posted by KH at 12:47| Comment(0) | TrackBack(4) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月19日

杉山茂樹のいない「Number」なんて

 スポーツ雑誌「Number(ナンバー)」のサッカー記事がつまらないと感じるようになって、どれくらいたつだろう。日韓ワールドカップを境に、ナンバーにおけるサッカー記事の量はがくんと増えた。だが、それに反比例するようにつまらなくなったような気がする(サイモン・クーパーの記事などは別だが)。

 理由の1つははっきりしている。杉山茂樹の書く回数がめっきり減っているからだ。スポーツライターとしては金子達仁の方が断然有名だろう。確かに金子の文章は熱いし、つぼにはまった作品は抜群に面白い。彼の名を高めた『28年目のハーフタイム』などはその好例だ。

 だがサッカーライターとしては、僕は杉山茂樹の方が好きだし、買っている。金子は特定の取材源に偏る嫌いがあるし(初期の中田英寿や川口能活)、実際のサッカーを見ている量が杉山より劣るのではないかと思うからだ。

 杉山の文章は癖がある。でもその独断と毒と、そして示唆に富む文章は、実際のサッカーを見るのと同じくらいの楽しみを、僕には与えてくれる。

 その杉山茂樹。数年前までは、チャンピオンズリーグの観戦記や監督インタビューなどを定期的にナンバーに書いていた。それが僕にとってはとても楽しみだったし、彼のそうした文章が世界のサッカーを見る時の道標になっていた。

 例えば4-2-3-1という今や世界の主流となったフォーメーションを、生まれた経緯やその効能をきちんと日本の雑誌で解説したのは、彼が初めてだったのではあるまいか。

 ところが現在のナンバーでは、彼が書くのは巻末の定期的な小さなコラム(SCORE CARD)と、日本代表のゲームの寸評ぐらいだ。あれほど欧州を旅しているはずなのに、チャンピオンズリーグや、ユーロ2004の解説はほとんど書いていない。

 杉山茂樹の文章はどこで読めるんだ?と思っていたら、最近はナンバーのライバルとなっている「Sportiva」に書いているようだ。

 おそらくナンバーは社員編集者の若返りとともに、ライターの方も編集者が使いやすい若手に切り替えているのではないかと思われるが、はっきり言って、杉山茂樹が書かないナンバーのサッカー記事は、かなりつまらない。

 と、そんなことをしばらく前から考えていた。ところがウェブを検索していたら、杉山さん、ナンバーのサイトにはチャンピオンズリーグについての連載をしているじゃありませんか。

 僕が常々リーガエスパニョーラなどのゲームを見つつ感じていたことをきっちりと言葉にしてくれているからでもあるのだが、やはり面白い。彼のように現場を徹底的に見ながら、歴史眼(サッカーのね)と戦術眼を併せ持つサッカーライターは、他にはそうはいない。

 ナンバーさん、こんな文章をウェブだけに掲載しておくのはもったいないですよ!
posted by KH at 01:58| Comment(34) | TrackBack(0) | サッカー・スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

映画『ドリームキャッチャー』

 映画『ドリームキャッチャー』を見た。前半は名作『スタンド・バイ・ミー』を彷彿させる展開で、期待が高まったが、エイリアンが登場するあたりで、「あれれ!?」となってしまった。原作を読んでいないせいもあって、最後まで筋が読めず、そういう意味では面白かったが、感動はしなかった。

 スティーヴン・キングの作品の多くは、道具立てはB級ホラーだ。だが、描かれる登場人物たちは、僕らとしっかりとつながっている。仕事がうまくいかなかったり、家族を失ったりする、酒がやめられなかったりする悲しみや恐怖や痛み。そうした普通の人々をきっちりと描き込んでいるが故に、道具立てはB級ホラーであっても、読者はその物語にしっかりと入り込むことができる。

 かつて『ペット・セマタリー』(文春文庫)を読んだ時、僕は父親になったばかりだったがために、他人事とは思えない痛みと恐怖とを感じた。

 ところが少し後で見たこの作品を原作にした同名の映画は、まさしくB級ホラーで、うまく感情移入できなかった。キングが文章で描いている道具を映像化すると、どうしてもグロテスクになりすぎて、少なくとも僕にとっては興ざめなのだ。

 この作品も、映画版『ペット・セマタリー』を見た時に考えたことと全く同じことを感じた。エイリアンが画面に現れた段階で、笑っちゃうんですよね。前半で描かれたエピソードが、後半の伏線にほとんどなっていない。もっと違った映像化の道があったのでは、と考えてしまう。道具としてのB級ホラーが大好きな人にとってはよいのかもしれないけれども。

『スタンド・バイ・ミー』や『ショーシャンクの空に』といったキング原作の映画で、僕が高く評価する作品は、もともとホラーの要素が小さいか、ほとんどないものだ。B級ホラー満載の文章を映像化することは、とても難しいことのように思える。

 もっともキングの作品自体も最近は変化しているのかも知れない。翻訳されるたびにすぐに買い求めていたキングの作品をあまり手に取らなくなってしまったのは、なんとなく内容の薄さを感じたり、既視感を持つようになってきたからだ。

『ドリームキャッチャー』の原作文庫本も手元にあるけれど、読むかどうか迷うところだ。なにしろ4冊もあるので、他にもっと読みたい本があると考えてしまう。

posted by KH at 00:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月18日

裏切られる快感、サラ・ウォーターズの『荊の城』

 正月休みから読んでいたサラ・ウォーターズの『荊の城』(創元推理文庫、上下2巻)を読み終わった。『このミス2005』海外編の第1位に輝いた作品だから、読んだ人も多いと思う。

 この作品の魅力の第一は「裏切られる快感」だろうか。「面白い!」と言われている割には先が読めるぞと思い出した矢先(上巻の五分の三くらいのところ)に、僕はまず「やられた!」と膝を打ってしまった。そしてこの「やられた!」感が続くのだ。特に下巻になってからは、「またやられた!」と幾度もうなってしまう。

 筋の面白い小説は古今東西いろいろあるが、『荊の城』は他人を信用して、詐欺に引っかかり「裏切られた!」と思う瞬間と同じ類の感情を、プロットの原動力にしている。本物の詐欺に引っかかった時は悔しさや後悔が先にくるだろうが、小説の場合は裏切られることは「快感」である。

 それと下巻後半のラント街の錠前屋のシーンも、ひどくドキドキさせられる。集団シーンにおいて、それぞれの登場人物が知っていることが異なり、それを特定の誰かにわからせようとしたり、わからせまいとしたり、あるいはその場の雰囲気から何が起こったかを知ろうとしたりすることは、こんなにもスリリングなのか。読んでない人には「なんのこっちゃ?」だろうけれど、それを書くと、筋に触れてしまうので。

 ただ、ちょっと長いかなとも思った。まあ最近のミステリーを読むと、たいていそう思ってしまうので、長さに関しては採点がからいかもしれないが。前半の描写(最初の「やられた!」が来るまで)がもうちょっと圧縮されていると、もっとスピード感が出てくるのでは。

 主人公スウ・トリンダーが、仕えることになったモード・リリーにだんだんに思いを寄せていく(これがこの小説の重要な要素でもある)ことを物語るには、このくらいの長さが必要なのかも知れないが。

 彼女の前作『半身』と、『荊の城』の下敷きになっているディケンズの作品もぜひ読みたい。

 彼女のインタビューによると、やはり「ディケンズがおそらく一番のお気に入りの作家」なのだそうだ。やはり、そうなのか。
posted by KH at 21:06| Comment(0) | TrackBack(1) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

初ブログ

 今日から念願のブログを始めることにする。それにしてもエキサイトのブログは簡単に設定できる。とにかくコンスタントに、長く続けられるようにしよう。

 私は埼玉の出身で、生まれてずっと東京近辺で暮らし、仕事をしてきた。だが今は仕事の関係で、四国で単身赴任をしている。

 読書、サッカー、映画あたりの分野から書いていこうと思うが、そのうち扱うテーマも増やしていきたい。

 ということで、今日からよろしくお願いいたします。
posted by KH at 20:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記・メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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