2005年01月18日

裏切られる快感、サラ・ウォーターズの『荊の城』

 正月休みから読んでいたサラ・ウォーターズの『荊の城』(創元推理文庫、上下2巻)を読み終わった。『このミス2005』海外編の第1位に輝いた作品だから、読んだ人も多いと思う。

 この作品の魅力の第一は「裏切られる快感」だろうか。「面白い!」と言われている割には先が読めるぞと思い出した矢先(上巻の五分の三くらいのところ)に、僕はまず「やられた!」と膝を打ってしまった。そしてこの「やられた!」感が続くのだ。特に下巻になってからは、「またやられた!」と幾度もうなってしまう。

 筋の面白い小説は古今東西いろいろあるが、『荊の城』は他人を信用して、詐欺に引っかかり「裏切られた!」と思う瞬間と同じ類の感情を、プロットの原動力にしている。本物の詐欺に引っかかった時は悔しさや後悔が先にくるだろうが、小説の場合は裏切られることは「快感」である。

 それと下巻後半のラント街の錠前屋のシーンも、ひどくドキドキさせられる。集団シーンにおいて、それぞれの登場人物が知っていることが異なり、それを特定の誰かにわからせようとしたり、わからせまいとしたり、あるいはその場の雰囲気から何が起こったかを知ろうとしたりすることは、こんなにもスリリングなのか。読んでない人には「なんのこっちゃ?」だろうけれど、それを書くと、筋に触れてしまうので。

 ただ、ちょっと長いかなとも思った。まあ最近のミステリーを読むと、たいていそう思ってしまうので、長さに関しては採点がからいかもしれないが。前半の描写(最初の「やられた!」が来るまで)がもうちょっと圧縮されていると、もっとスピード感が出てくるのでは。

 主人公スウ・トリンダーが、仕えることになったモード・リリーにだんだんに思いを寄せていく(これがこの小説の重要な要素でもある)ことを物語るには、このくらいの長さが必要なのかも知れないが。

 彼女の前作『半身』と、『荊の城』の下敷きになっているディケンズの作品もぜひ読みたい。

 彼女のインタビューによると、やはり「ディケンズがおそらく一番のお気に入りの作家」なのだそうだ。やはり、そうなのか。
posted by KH at 21:06| Comment(0) | TrackBack(1) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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