2005年01月22日

小説の可能性を見せられた『夜のピクニック』(恩田陸)

 ある程度本を読む人なら「この人が誉めている本なら大丈夫だろう」という書評家が何人かいるだろう。僕にとって小説分野で最良の道先案内人は小林信彦や村上春樹。さらに池上冬樹も信用している評論家の1人だ。

 その池上冬樹が朝日新聞の読書欄で昨夏に「新作にして名作。必読!」と評価していたのが、恩田陸の『夜のピクニック』だ。当然、すぐに買ったのはいいが、ぐずぐずしているうちに「本の雑誌」の2004年度ベスト1に選ばれ、世間で評価が高まる前に読んで他人に教えるという楽しみを失い、年が明けてしまった。

 昨晩読み始めて、仕事があるにもかかわらずほぼ1日で読み終えた。「夜を徹して80キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント『歩行祭』」を舞台とした小説だ。作品中で流れる時間も1日なので、それとほぼ同じ時間で読み終えたことになる。

 第1に思うのは、読み続けている時間が幸せだったということ。事件らしい事件は起こらない。血は流れない、暴力はない、セックスもない。恋愛の予感はあっても、恋愛そのものが描かれているわけでもない。あえて言えばテーマは友情や家族だろう。だけれども、読む者の心を揺り動かし、「この先はどうなるのだろう?」と思わせて、最後には登場人物を祝福できる。そんな小説だ。

 人を殺すこと、人が死ぬことや、激しい性や暴力がストーリーテリングの重要な原動力になるのを認めないわけではない。ただそのような激しさがなくても、こんなにも先を読みたくなる小説が成立するのだ。そういう意味で、小説の持つ可能性の大きさを見せられた気がする。

 ただ細かい点で不満もないわけではない。登場人物たちは主役だけでなく脇役もみな、自分という人間を把握し、周囲の友達までよく見えている。自分が高校生だった頃を振り返ってみても、ここまで周りが見えていた、物がわかっていたとは到底思えない。もっと誤解と焦りとうぬぼれに満ちているのが、本物の高校生活ではないか。

 そういう意味では、この本に出てくる登場人物たちの心情は、大人(作者)が自分の高校生の頃を振り返り、一つ一つの行動の裏にあった性格なり意味なりを深く掘り下げた上で描き出した「心情」のような気がする。
posted by KH at 14:43| Comment(3) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
HKさん!こんばんわ。私です!(ってわかるかな??わかってください・笑)
恩田睦さんの「木曜組曲」という作品が昔映画化されていて、TVで見たことがあるんです。
鈴木京香主演のものです。これがすごく面白くて、恩田作品を読もう読もうと思っていました。ですので、「夜のピクニック」を皮切りにしたいと思います!
メールはのちほど送ります☆
リンクよろしくお願いします。まだ始めたばかりなのであまあまですが(笑)
Posted by まよこ at 2005年03月19日 02:56
まよこさん、コメントありがとうございます。恩田陸作品は『夜のピクニック』が初めてでしたが、これからも恩田陸作品を読みたいなと思ってます。他には何がおすすめでしょうね?
Posted by KH at 2005年03月23日 02:48
夜ピクも映画化されますよ。http://blogs.yahoo.co.jp/kyoto_wayfarer/10316004.html
Posted by けん at 2005年10月31日 19:15
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