2005年03月06日

やさしい言葉だけを使い、紋切り型にはならない文章

 やさしい言葉、誰もが普段から口にしているような言葉だけを使い、だけれども紋切り型では決してない、生きた文章を書く。言うのはやさしいけれども、それはとても難しいことだ。そのことを、見事なまでにできている小説が、レベッカ・ブラウンの『体の贈り物』(柴田元幸訳、新潮文庫)だ。

 主人公はエイズ患者を世話するホームケア・ワーカーの女性。この短編集には、彼女と患者たち、あるいは患者の家族や友人、そしてホームケアワーカーを主催するグループのメンバーとの交流を巡る11の物語が収められている。

 エイズ患者がアメリカにおいて最初に報告されたのが1981年だというから、エイズにも既に四半世紀近い歴史があるわけだ。その中で、小説や映画、ドラマでエイズやエイズ患者がテーマになったことはあまたあるだろう。

 それだけに、この手の話を「書く」ことはとても難しい。エイズ患者やエイズについての固定観念があるから、物語はとても陳腐になりやすい。それなのに、この短編集は少しも陳腐でない。

 筆者、レベッカ・ブラウンは実際ホームケアワーカーの経験があるそうだが、だからといって、このような陳腐でなく、患者の息づかいや肌触り、患者と接した時のとまどいや恐怖、そしてふれ合いの中で感じる暖かさまで感じられる文章を書けるものではない。筆者にはきっと、流布している物語に流されずに現実を見る目と、それを言葉に移し替える力があるのだろう。付け加えれば、柴田元幸の訳も、彼女の文章に合っているのだと思う。

 もう一つ強調すべきは、「汗の贈り物」「死の贈り物」「希望の贈り物」といった11の短編がすべて「○○の贈り物」といったタイトルになっている点だ。エイズ患者を世話するとは、遅かれ早かれ患者の死を迎えることにつながるにもかかわらず、筆者は患者との交流の中から「贈り物」という肯定的な何かを見いだしている。

 正直、こうした状況にたったことのない僕には、わからない感情や状況もある。だが家族や大切な人の死を看取ったことのある人、死が避けられない家族や友人を今持っている人、そういう人を勇気づける、支える力のある本だ。読み終わった後、大切な人を亡くしたばかりの友人に薦めたいと思った。
posted by KH at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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