2005年04月07日

怠け者だった王貞治――秀逸なNHKのプロ野球ドキュメンタリー

 3月末のことだが、プロ野球の開幕を前にNHKが総合テレビで放映した「プロ野球・新時代へ 熱球の伝説」(全5回)がめっぽう面白かった。

 例えば2回目の「一本足打法の衝撃 ホームラン王誕生」(3月22日放送)。世界の王貞治が一本足打法を完成させ、ホームラン王となるまでの道のりを描いたものだが、小学生の頃には王貞治フリークであった自分でさえ、知らない事実がたくさん詰まっていた。

 僕にとって最も意外だったのは、王貞治が「怠け者だった」という点だ。番組中では、当時の監督だった川上哲治も、王貞治を徹底的に指導して一本足打法を導いた荒川尭コーチも、そのことを繰り返し証言している。

 巨人がV9を達成した後、晩年のころしか知らない僕にとって王は「求道者」のイメージそのもの。子どもの頃に読んだ王の自伝(こんなものを読んでいたんだな)には、真剣を取り入れたトレーニング法や、合気道の応用などが披露されており、それが求道者のイメージをさらに強くしていた。

 ところが番組によると、1959(昭和34)年に入団してからの王は素質だけで勝負している選手で、「怠け者だった」のだという。1962(昭和37)年初頭からは荒川の指導で練習に取り組んでいたものの結果は出ず、6月末には「打席に立つのが恐い」とこぼすところまで極度な不振に落ち込んでいた。

 そして7月1日の川崎球場での大洋戦。ヘッドコーチの別所毅彦に「チームが打てないのはおまえの責任。王に、今日からホームランを打たせろ」と怒鳴られた荒川は「昨日の夜、練習したように、今日は一本足で打て」という指示を王に出した。ためをつくり、タイミングを取りやすくするために、たまたま前の晩に一本足打法に取り組んでいたのだ。

 その試合の第1打席はヒット。そして第2打席、王は荒川に言われた通り高々と足を上げバットを振ると、ボールは右翼席に。この試合で王は5打数3安打と大活躍した。

 荒川は言う。「たまたま足を上げたこの瞬間にホームランが出た、これが何とも言えない彼の幸運だった」。そのゲームの後、荒川は王にこう話したという。「おまえは、この一本足で運をつかんだ。つかんだ運を離さないために、今まで以上に練習しような」。

 王はこの日を境に「練習の鬼」に変わっていったのだった。

 僕はてっきり、「鬼気迫る猛練習」の末に一本足打法があったのかと思っていた。でも事実は逆。一本足打法はたまたまの偶然から生まれたもの(その偶然も、努力の末の偶然ではあるのだが)で、それを定着させる、自分のものとするために王は「鬼気迫る猛練習」に取り組んだのだ。

 この逸話は、様々なことを示唆しているようにも思える。

 良質なノンフィクションやドキュメンタリーは、視聴者や読み手がよく知っているはずの事柄について、読む、見る側の予想を上回る、覆すような素材を提供する。今回の「プロ野球・新時代へ 熱球の伝説」はこの王の回に限らず、まさしく僕らの予想を覆すようなファクツを伝えてくれる、第一級のドキュメンタリーだ。

 今回の番組のように、豊富な資金力を前提にした丹念なインタビュー。そして過去の膨大な映像蓄積。これこそがNHKの強みだと思う。

 夜7時のNHKニュースで、ホリエモンを妙にらしくない派手派手しいやり方で取り上げ、自社の問題も含めそのほかのニュースをかすめさすようなやり方が、本当のNHKだとは思いたくない。
posted by KH at 00:38| Comment(0) | TrackBack(0) | サッカー・スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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