2005年05月12日

「日勤教育」原因説のあやしさ

 私見だが、今回の尼崎JR脱線事故の背景には3つの対立、ないしはライバル関係が背景にあるのではないか、と考えていた。

 1つめは言わずと知れたJR西日本と関西私鉄、特に大阪(梅田)・宝塚、大阪(梅田)・三宮の間で並走する阪急との関係。2つめは国鉄民営化後のライバルであるJR東日本との関係。そして最後の3つめはJR西日本の経営側と労働組合との関係だ。

 事故が起こったのは4月25日。その直後は、マスコミも「オーバーランなどで何回も訓告歴があり、伊丹駅で大幅なオーバーランをした高見隆二運転士自体に、最大の問題がある」という見方だったように思う。ところが2日後の27日からJR西日本の現役運転士がテレビ出演して「日勤教育」を告発すると、マスコミは運転士個人よりも「日勤教育こそ諸悪の根源」という見方に傾いていった。

JR総連 外国特派員に「運行管理が原因」
 全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)とJR西日本労組(JR西労)が28日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見し、JR西日本の経営姿勢や運行管理などが事故の原因と訴えた。世界有数の安全性を誇る日本の鉄道で起きた大惨事とあって、欧米やアジアからの特派員ら約20人が熱心に耳を傾けた。

 会見では尼崎地区での運転士経験者が、オーバーランなどのミスを犯した運転士に課される懲罰的な「日勤教育」の実態を説明。1カ月以上にわたり、監視下でのリポート作成や草むしりを続けた経験談を披露し「日勤教育の経験を持つ事故列車の運転士が、恐怖心から正常な判断力を奪われたことが、速度超過でのカーブ進入につながった」などと主張した。(後略)
(毎日新聞 2005年4月28日 20時00分)

 この報道の流れに、僕はなんとなく違和感を持った。確かに「日勤教育」は背景の要因の1つかもしれないが、事故の原因がはっきりしない現段階で、日勤教育と事故とを直接結びつけるのには無理があるのではないか。むしろ、この時とばかりに日勤教育の問題点を告発する組合所属の運転士たちに、何らかの意図があるのでは、という疑問を感じた。

 おそらく、この動きの背景にはJR西日本の経営側と組合側に対立があり、それが事故を機に表面化しているのではないか。しかし組合問題が常に話題になるJR東日本と比べると、JR西日本の組合については、あまり話題になったことがない。どういう関係になっているのか――。

 それが、つい最近まで感じていたことだ。しかし今週発売の週刊文春(5/19号)と週刊新潮(同)を読んで、ある程度、疑問が氷解した。

 両誌によると、脱線事故でまっさきに会社批判をしたのは、少数組合のJR西日本労働組合(JR西労)で、もともとから徹底した経営側との対立路線を歩んでいる。しかしJR西日本で最大労組なのは西日本旅客鉄道労働組合(JR西労組)で、こちらは労使協調路線を採ってきた。

 そしてJR西労の上部団体はJR東日本の最大労組、東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)が7割近くを占める全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)なのだという。一方のJR西日本労組の上部団体は、連合系の日本鉄道労働組合連合会(JR連合)だ。

 そう、「日勤教育」を糾弾したJR西労は、革マル派ともつながりがあるとされるJR東労組、JR総連系の組合だったのだ。

 実際に日勤教育が事故の要因になったかのかは、本当のところはわからない。週刊文春が指摘するように、JR西労=JR総連は事件を機に、世論を味方に付け、JR西日本の労政転換と、組織拡大を図る狙いがあるのだろう。

 ちなみに高見運転士はJR西労組の所属、松下正俊車掌はJR西労の所属だ。高見運転士の運転の背景に「日勤教育」があると考えるなら、本来、所属するJR西労組=JR連合こそ「日勤教育」を糾弾しているはずだ。だがJR連合のホームページにある事故についての記事の中には、そういったことは一切書かれていない。

JR連合のホームページの「お詫び」

 JR西労が、週刊文春に対して松下車掌の単独インタビューを掲載しないように求めたり、松下車掌の妻の取材をさせないようにしているのも、松下車掌やJR西労側に不利な証言が出ることを嫌っているからであろう。

 以下の記事のように、松下車掌が直後に妻に電話していたとすれば、松下車掌やJR西労にとって、極めて不利になる。

車掌 事故直後に妻に電話

 事故を起こした快速電車に乗務していた松下正俊車掌(42)が事故直後、携帯電話を通じて、悲しげな声で妻(38)に伝えていたことが29日分かった。妻によると、「おれの電車が脱線してもうたんや」と語り始めたという。そして「ケガは?」「腰を打った程度や」「いつごろ帰れるの?」「もう1本、桜島線に乗らなあかんから」。それだけのやりとりで電話は切れた。

 それ以後、夫は帰宅していない。警察の事情聴取もあり、携帯電話のやりとりも2回ほど。「警察の言うことをきちんと聞いて。ちゃんとしいや」と励ますと、涙声で「うん」。伊丹駅でのオーバーランを口裏合わせしたことについて「何でそんなことしたん」と疑問をぶつけると、「厳しいやん。高見君が処分を受けてしまう」とかばっていたという。(後略)
(スポーツニッポン 2005年04月30日付)

 こうして見ていくと、今回の尼崎JR脱線事故。関係者の発言には、さまざまな「色」や「意図」がついていることがわかる。そうした「色」や「意図」を理解せずに、表面的な発言だけで事実を再構成すると、間違いを犯す危険性がある。

 そうか、この事故の背景を理解するには、4つめの「組合対組合(JR総連対JR連合)」という対立関係も、頭に入れなければならないのかもしれない。やはりJRは伏魔殿だ。

・追記(5/15)

 以下のリンクを見ると、複雑な国鉄・JRの組合の歴史がよくわかる。

国鉄労働組合変遷略図
posted by KH at 23:59| Comment(1) | TrackBack(1) | 時事・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
事故から数日経って、大学の授業で先生が世間話のように、KHさんと同じように対立関係であったのではないかと話をしていました。
阪急は宝塚を作ったことで繁栄して、それに対して西日本が車体を軽くしてスピードで勝とうと車体全体を軽くしたために、衝撃に弱い車体となってあんなにぺしゃんこになってしまったのではないか・・?といった内容でした。
なんとコメントしたいのか自分でよくわからないのですが、思い出したので書きたかったんです(笑)労組の話もしていました。
話がずれてしまうかもしれませんが、労働環境は労働の質に大きく影響するんだと痛感いたしました。
今、私のバイト先は人が足りなくて、3人くらいのバイトが週4,5日入ってシフトをまわしているんですね。始めはいいんですけど、これが2ヶ月くらい続いていて、疲れが出始めているんですよ。バイトの子たちは疲れを顔に浮かべながら仕事自体も身に入らない状況なんですね。
週刊文春の「生き残った車掌が病室で独白」を読んで、高見運転士が働き通しだったという記事を目にして「なんだかなあ」と思ったわけです。
高見運転士が疲れのせいで事故を起こしたのかどうかはわかりませんが、労働環境を整えないと仕事の質が下がってしまうのは仕方ないんだと思ったんです。理想論では、「気合だ!気合!」ですが、実際、体力は限界があるわけですから、気合でどうにもならないことってあると思うんですよね。
議論の質が低くて申し訳ないです(笑)
ふとそう思ったんですよね。
Posted by まよ at 2005年05月22日 01:50
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