2006年01月25日

転落直前の熱狂 ライブドアとエンロン

 温故知新というわけでもないのだが、ライブドア強制捜査をきっかけに、『エンロン 内部告発者』(ミミ・シュワルツ、シェロン・ワトキンス ダイヤモンド社)を読み始めた。その冒頭に、印象的な場面がある。

 ウォールストリート・ジャーナルがエンロンの不正会計疑惑を報じるよりほぼ1年前の200年11月にエンロン本社で行われた経営総会。当時最高執行責任者(COO)だったジェフ・スキリングが壇上に立ち、恒例の年度株価予想をぶつ場面だ。

 これまで、彼の予測はぴたりと的中していた。一九九八年には四〇ドルが六〇ドルに伸び、九九年には八〇ドルになった。(中略)エンロン株は、二〇〇一年には一二六ドルをつけるだろう、と彼は言った。沈黙に続く熱狂的な拍手はエンロンらしかった。(23ページ)

 こんな場面を持ち出したのは、23日に民放各社がニュースやワイドショーで放映した昨年末のライブドア忘年会の光景に、エンロンの経営総会に通ずるものを感じたからだ。

 昼間の株主総会で見せた涙が嘘のように、うたい、踊りまくる堀江氏。「3年以内に世界一の会社にするぞ〜」。堀江氏がこう宣言すると、社員から歓声が上がる。2つの会社は時代も場所も違うけれど、どちらの光景も、株価が急ピッチで上昇する会社に特有の浮ついた熱狂のように見える。

 エンロンが急坂を転がり始めるのはそれからほぼ1年後だったのに対し、ライブドアはわずか3週間後であるのが異なる点だが、ほとんどの参加者がその後の暗転を予想していないことも共通している。

 付け加えると、エンロンの経営総会には、もう一つ、印象的な場面がある。その会の中で『エクセレント・カンパニー』
の著者であるトム・ピーターズだけが、警鐘を鳴らしたのだ。

 ピーターズは、マッキンゼーでのかつての同僚スキリングに向かって、「こんな恐ろしい言葉は聞いたことがありません」「自信過剰は、多くの企業を殺してきました」と言った。ピーターズのスピーチの間、スキリングはこわばった笑い顔で席に凍り付いていたのだという。

 ライブドアの忘年会。はたしてトム・ピーターズのように、警鐘を鳴らす存在はいたのだろうか。



 
ラベル:ライブドア
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2006年01月24日

時価総額最大化経営は企業価値を損なう

 23日の夜、ライブドアの堀江貴文社長が逮捕された。大型株式分割や転換社債型新株予約権付社債(MSCB)などを活用した資金調達手法のいかがわしさについては、以前にこの日記でも書いたことがある。

 この時点で僕は大型株式分割やMSCBといったことにしか気づいていなかったが、ライブドアはその時点で、株式分割にM&Aの発表を当てて株価をつりあげる、実質的には傘下に収めてた企業を株式交換で買収、投資事業組合を介した株売却益の環流、そしてライブドア本体の粉飾決算などに手を染めていたことになる。

 大型株式分割や、フジテレビとの攻防で問題になった時間外取引など、個別に取り上げれば違法ではない手法も多い。宮内亮治取締役は一連の株取引には「違法性がない」との認識を示したとされるが、彼らは本当にそう考えていたのかも知れない。だが個々の手法を組み合わせた全体の構図は、明らかに法の裏をかこうとしていたことがうかがえる。

 どこでライブドア、ホリエモンが道を間違えたか。それは今後の捜査で明らかになっていくだろうが、1つ強く思うのは、彼らが掲げた「時価総額最大化経営」は結果として企業価値を損なうということだ。

 本来、長期的な株価上昇=時価総額の極大化とは、長期的な収益の伸びによるもののはずだ。持続的に収益の伸びを実現できる会社は、成長力のある市場で高いシェアを占めたり、強い技術を開発したり、魅力的な商品を持つなど、経営力の高い企業だ。つまり結果的に高い株価、大きな時価総額を実現できる企業も、出発点は経営力を高めることにある。株価は結果でしかない。

 しかし経営トップが高株価経営とか、時価総額最大化経営を掲げ出すと、いつの間にか「結果」であるはずの株価が目的にすり変わってしまう。よい経営→収益向上→高株価というプロセスを経ずに、最も最小限の努力で株価を上げることに奔走するようになる。

 そこに落とし穴がある。大型株式分割による意図的な株価引き上げも、粉飾決算、風説の流布も、株価上昇が唯一の目的になってしまったことに根っこはあるように思える。

 ライブドアは前身のオン・ザ・エッヂ時代の2000年4月に東証マザーズに上場した。「社長が20歳代の若い会社」という意味では話題性はあったが、その後の下げ相場の中で株価も低迷、市場や社会に大きな話題を提供するような会社ではなかった。変わったのは2003年春の上げ相場以降のことだ。2003年8月の株式10分割で株価が急騰、9月に公募増資で51億円を調達したあたりが、ライブドアの“変わり目”だったのかもしれない。

 2000年春にかけてのITバブル時には孫正義氏率いるソフトバンクと重田康光氏の光通信が時価総額の最大化を掲げ、光通信はその後の株価下落で財務内容が悪化し、市場のメーンプレーヤーの座を失った。ソフトバンクはかろうじて生き残りはしたものの、今の孫氏は時価総額最大化を以前のようには掲げなくなった。

 ライブドアの株価は今日も売り気配のまま。株価は短期的には意図的なつり上げが可能に見えるが、長期的に見れば会社や経済の実態に近接する。短期的な株価上昇に暴走する時価総額最大化経営は、長い目で見れば企業価値を損なってしまうのだ。
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2005年05月12日

「日勤教育」原因説のあやしさ

 私見だが、今回の尼崎JR脱線事故の背景には3つの対立、ないしはライバル関係が背景にあるのではないか、と考えていた。

 1つめは言わずと知れたJR西日本と関西私鉄、特に大阪(梅田)・宝塚、大阪(梅田)・三宮の間で並走する阪急との関係。2つめは国鉄民営化後のライバルであるJR東日本との関係。そして最後の3つめはJR西日本の経営側と労働組合との関係だ。

 事故が起こったのは4月25日。その直後は、マスコミも「オーバーランなどで何回も訓告歴があり、伊丹駅で大幅なオーバーランをした高見隆二運転士自体に、最大の問題がある」という見方だったように思う。ところが2日後の27日からJR西日本の現役運転士がテレビ出演して「日勤教育」を告発すると、マスコミは運転士個人よりも「日勤教育こそ諸悪の根源」という見方に傾いていった。

JR総連 外国特派員に「運行管理が原因」
 全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)とJR西日本労組(JR西労)が28日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見し、JR西日本の経営姿勢や運行管理などが事故の原因と訴えた。世界有数の安全性を誇る日本の鉄道で起きた大惨事とあって、欧米やアジアからの特派員ら約20人が熱心に耳を傾けた。

 会見では尼崎地区での運転士経験者が、オーバーランなどのミスを犯した運転士に課される懲罰的な「日勤教育」の実態を説明。1カ月以上にわたり、監視下でのリポート作成や草むしりを続けた経験談を披露し「日勤教育の経験を持つ事故列車の運転士が、恐怖心から正常な判断力を奪われたことが、速度超過でのカーブ進入につながった」などと主張した。(後略)
(毎日新聞 2005年4月28日 20時00分)

 この報道の流れに、僕はなんとなく違和感を持った。確かに「日勤教育」は背景の要因の1つかもしれないが、事故の原因がはっきりしない現段階で、日勤教育と事故とを直接結びつけるのには無理があるのではないか。むしろ、この時とばかりに日勤教育の問題点を告発する組合所属の運転士たちに、何らかの意図があるのでは、という疑問を感じた。

 おそらく、この動きの背景にはJR西日本の経営側と組合側に対立があり、それが事故を機に表面化しているのではないか。しかし組合問題が常に話題になるJR東日本と比べると、JR西日本の組合については、あまり話題になったことがない。どういう関係になっているのか――。

 それが、つい最近まで感じていたことだ。しかし今週発売の週刊文春(5/19号)と週刊新潮(同)を読んで、ある程度、疑問が氷解した。

 両誌によると、脱線事故でまっさきに会社批判をしたのは、少数組合のJR西日本労働組合(JR西労)で、もともとから徹底した経営側との対立路線を歩んでいる。しかしJR西日本で最大労組なのは西日本旅客鉄道労働組合(JR西労組)で、こちらは労使協調路線を採ってきた。

 そしてJR西労の上部団体はJR東日本の最大労組、東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)が7割近くを占める全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)なのだという。一方のJR西日本労組の上部団体は、連合系の日本鉄道労働組合連合会(JR連合)だ。

 そう、「日勤教育」を糾弾したJR西労は、革マル派ともつながりがあるとされるJR東労組、JR総連系の組合だったのだ。

 実際に日勤教育が事故の要因になったかのかは、本当のところはわからない。週刊文春が指摘するように、JR西労=JR総連は事件を機に、世論を味方に付け、JR西日本の労政転換と、組織拡大を図る狙いがあるのだろう。

 ちなみに高見運転士はJR西労組の所属、松下正俊車掌はJR西労の所属だ。高見運転士の運転の背景に「日勤教育」があると考えるなら、本来、所属するJR西労組=JR連合こそ「日勤教育」を糾弾しているはずだ。だがJR連合のホームページにある事故についての記事の中には、そういったことは一切書かれていない。

JR連合のホームページの「お詫び」

 JR西労が、週刊文春に対して松下車掌の単独インタビューを掲載しないように求めたり、松下車掌の妻の取材をさせないようにしているのも、松下車掌やJR西労側に不利な証言が出ることを嫌っているからであろう。

 以下の記事のように、松下車掌が直後に妻に電話していたとすれば、松下車掌やJR西労にとって、極めて不利になる。

車掌 事故直後に妻に電話

 事故を起こした快速電車に乗務していた松下正俊車掌(42)が事故直後、携帯電話を通じて、悲しげな声で妻(38)に伝えていたことが29日分かった。妻によると、「おれの電車が脱線してもうたんや」と語り始めたという。そして「ケガは?」「腰を打った程度や」「いつごろ帰れるの?」「もう1本、桜島線に乗らなあかんから」。それだけのやりとりで電話は切れた。

 それ以後、夫は帰宅していない。警察の事情聴取もあり、携帯電話のやりとりも2回ほど。「警察の言うことをきちんと聞いて。ちゃんとしいや」と励ますと、涙声で「うん」。伊丹駅でのオーバーランを口裏合わせしたことについて「何でそんなことしたん」と疑問をぶつけると、「厳しいやん。高見君が処分を受けてしまう」とかばっていたという。(後略)
(スポーツニッポン 2005年04月30日付)

 こうして見ていくと、今回の尼崎JR脱線事故。関係者の発言には、さまざまな「色」や「意図」がついていることがわかる。そうした「色」や「意図」を理解せずに、表面的な発言だけで事実を再構成すると、間違いを犯す危険性がある。

 そうか、この事故の背景を理解するには、4つめの「組合対組合(JR総連対JR連合)」という対立関係も、頭に入れなければならないのかもしれない。やはりJRは伏魔殿だ。

・追記(5/15)

 以下のリンクを見ると、複雑な国鉄・JRの組合の歴史がよくわかる。

国鉄労働組合変遷略図
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2005年05月10日

ちょっとおかしくないか、尼崎JR脱線事故報道

 連日の尼崎JR脱線事故報道を見ていて、日に日に疑問が強くなっている。この事故で一番の責任はJR西日本にあるのは確かだろう。だが、マスコミ各社、特にテレビのJR西日本の責め方は、少し行き過ぎではないのか。

 果たしてボウリング大会やその後の宴会のことが、テレビニュースのトップであったり、新聞の一面トップに値するものなのだろうか。

 JR西日本の対応のまずさが火に油を注いでいる面はあるのだろうが、現状は「いじめ」に近い状態になっていまいか。

 そんなことを思っている時に、この記事を読んだ。少し長いが、いずれリンクは切れてしまうので引用する。

【社会部発】「罵倒だけ…恥ずかしい」「客観報道」へ自戒 荒れるJR西会見場/取材陣にも厳しい目

 「遺族の前で泣いたようなふりをして、心の中でべろ出しとるんやろ」

 「あんたらみんなクビや」

 四日深夜、ボウリング大会が発覚した後のJR西日本幹部の会見。激しい言葉を次々と投げかけられ、この幹部はぐっと唇をかみ締め、目を伏せたまま微動だにしない状態が続いた。

 発言したのは、犠牲者の遺族ら事故に巻き込まれた関係者ではない。会見に出席した一部の記者がぶつけたものだ。

 こうした荒れた会見の様子をニュースやワイドショーで放送したテレビ局には、視聴者から「遺族の代表にでもなったつもりなのか」などとマスコミ批判も寄せられた。

(中略)

 ただ、会見の場で質問する記者の多くは社名を名乗ることもなく、時に怒声をあげてJR西側の回答をさえぎることも。このため、マスコミ側に寄せられた苦情には「罵倒(ばとう)だけの会見は恥ずかしい限り」「記者の会社名と名前を出すべきだ」といった意見も多かった。

 ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは「感情的な言葉はあまりに聞き苦しい。自分もミスを犯すかもしれないということを忘れ、恫喝(どうかつ)的な姿勢になっている」。

(中略)

 放送批評懇談会の志賀信夫理事長は「一番大切なのはなぜ事故が起きたのかという点だが、現状ではJR西日本のダメぶりをボウリング大会などの不祥事から誇張して騒ぎ立てている印象だ。事故原因や、職員と車掌は何をすべきだったのかなど、事の本質を客観的に報じることが求められている」と話す。

 遺族や被害者の立場に立った報道は重要だ。しかし、客観性や冷静さを欠いた報道は、今回の事故の本質を見失わせる。そのことを肝に銘じながら、真実を追いかけていきたい。(JR脱線事故取材班)
(産経新聞2005年5月7日)

 こう考える記者が取材現場にはいることを知って、少しホッとした。
posted by KH at 23:59| Comment(5) | TrackBack(0) | 時事・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月03日

ライブドアは株主にとってよい企業か

 ホリエモンこと堀江貴文社長が率いるライブドアは、ニッポン放送株の買収資金を調達するために、転換社債型新株予約権付社債(MSCB)という手法を用いた。貸株と併用すれば引受先の証券会社(今回の場合はリーマン・ブラザーズ証券)が確実にもうかる商品で、一方株価はほぼ確実に下がるために、既存株主が損を被る確率がきわめて高い手法だ。

 だが過去にさかのぼって調べてみると、ライブドアは昔からこうした株主の不利益を伴う手法によって、資金を集めてきた会社のようだ。

 ライブドア(旧・オン・ザ・エッヂ)が東京証券取引所マザーズに上場したのは2000年の4月。まさにネットバブルのピーク時に株式を公開、公募増資で約60億円を調達した。当時はネットベンチャーに対する評価が異常に高すぎたが故に、集めることのできた資金だった。当然ネットバブルの崩壊と同時に株価は高値から9割程度下落。上場時から株式を保有する多くの投資家が損を出したという。

 ライブドアが現在のように「有名」になる転換点となった2000年4月の公募増資(382億円を調達)も、イレギュラーな形で高くなった株価を利用している。

 ライブドアは2003年12月に1対100の株式分割を実施した。理論的には、分割は企業価値や時価総額には影響を与えない。100分割であれば、発行済み株式数が100倍に増え、株価は100分の1になり、時価総額は変わらないというのが理屈だ。

 だが日本の場合、株券印刷などの物理的な制約から、増えた分の新株が交付されるのは1カ月半から2カ月後になる。その間、株価はいったん100分の1になり、買い手が殺到するが、新株は流通していないという状況が続く。分割の度合いが大きければ大きいほど 需給関係が逼迫して株価の高騰をもたらす。ライブドアの100分割の場合、時価総額は一時的に分割前の10倍にまで膨れあがった。

 そのイレギュラーな株価を前提に公募増資をしたからこそ、400億円近い資金を集められたわけだ。この資金がなければ、当然、近鉄バッファローズの買収に名乗りを挙げることはできなかっただろう。

 そして今回のMSCB。ライブドアが発行するMSCBに付いている転換価格の下方修正条項では、株価下落に合わせて転換価格も下がり、常に市場価格より10%安い価格で株式に転換される。リーマンにとっては株価が下がっても、売れば売るだけ利益が稼げることから、引き受け条件で下限に設定された157円にまで株価が下がる可能性もある。

 株式分割直後の公募増資より、MSCBはさらに「裏技」の度合いが強い。実際、これまでMSCBを発行した会社は、中長期で見るとほぼ間違いなく株価が下落し、仕手筋のおもちゃにされ、今や会社の体をなしていないところも少なくない。

 ホリエモンという経営者を、その数々の発言から判断すると、魅力的に映ることは確かだ。プロ野球参入問題で読売新聞グループの渡邉恒雄オーナーなど旧世代のオーナーたちを斬ったように、フジテレビの日枝久会長との論戦でも、理はホリエモンが勝っているように見える。

 マスメディアでも、多くのブログでも、ホリエモンにエールを送る人は少なくない。実際AERAなどは、「そんなに他のメディア(フジサンケイグループ)が問題になっているのが面白いか」と勘ぐってしまうほどに、ホリエモンには好意的だ。

 だがライブドアという会社自体は、ホリエモンの発言ほどには内容のある会社ではないように見える。足場となる自社(ライブドア)の株価が下がる一方では、肝心の株主から怒りを買うだけだろう。

 株式の100分割後の株価下落局面でも、ライブドアはプロ野球への参入表明や、ソフト会社弥生の買収など話題を提供し続けることで、株価の下落をなんとかおさえてきた。

 だがニッポン放送株を手に入れるために手を出したMSCBは、ライブドアの企業価値を損ない続ける危険性を持つ。ニッポン放送問題が長期化する様相だけに、ホリエモンの分は、日に日に悪くなっているように思える。
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2005年01月30日

権力者が自らを予見するのは難しい(2 海老沢勝二氏の場合)

 NHKの海老沢勝二前会長が顧問就任を辞退した。「顧問就任を辞退」などと言うと自発的なように聞こえるが、要は顧問就任に対する批判が予想を大きく上回り、「辞任」に追い込まれたというわけだ。

海老沢前会長ら3氏、NHK顧問辞任
 NHKの橋本元一新会長(61)は28日夕、緊急記者会見を開き、海老沢勝二前会長(70)、笠井鉄夫前副会長(63)、関根昭義前放送総局長(62)の3人が「顧問就任を辞退し、それを了承した」と発表した。NHKはこれまで「3氏は26日付で顧問に就任した」と説明していた。3氏の顧問就任に対して視聴者から抗議や批判が殺到しており、橋本会長は「顧問の委嘱が結果的に悪い影響を出したことについては反省している。状況を悪化させた」と話した。顧問制度は廃止する方向で検討するという。

 海老沢前会長ら3氏は25日、一連の不祥事に伴う受信料の支払い拒否・保留の急増で引責辞任した。翌日、顧問に就任した。

 NHKによると、海老沢前会長らの顧問就任が明らかになった後の27日と28日の2日間に、視聴者からの電話やメールによる抗議や批判の意見が6500件にのぼった。ほとんどが「おかしい」などという内容だった。橋本会長は「クレームが来るのではないかと予想はしていましたが、こんなに大きな波とは」と見込みが甘かったことを認めた。

 橋本会長の説明によると、海老沢前会長らに対しては、慣例によって機械的に顧問を委嘱したという。橋本氏は「内外の役職の引き継ぎもあり、業務の円滑化を考えた」などと説明した。

 海老沢前会長の影響力が残るのではないかという懸念がNHK内外から出ていたことには「顧問は経営の権限はない。私自身が経営方針を打ち出して改革を実行していく」と否定した。

 抗議や批判が増え続ける中、28日午後に「海老沢前会長ら3氏から顧問就任の辞退申し入れがあった」という。橋本会長は「ご自身からのご辞退というほか、申し上げることはございません」と述べた。慰留はしなかった。
朝日新聞 2005/01/29


 それにしても、ほとほとあきれてしまう。海老沢氏とそのとりまきには「都合の悪い情報」や「視聴者からの生の声」はまるで届いていないのだろうか。

 昨年9月に海老沢氏がが不祥事の説明をするため参考人で呼ばれた衆院総務委員会を、NHKは生中継しなかったことで、彼への批判が噴出した。それ以来、批判にさらされ続けていたにもかかわらず、「顧問に就任したら、これまで以上の批判を受ける」ということを想像できなかったわけだ。

 だが、こういうケースはこれまでにもよくあった。「海老沢氏、顧問辞任」の記事を読みながら「どこかで聞いたような話だな」と記憶をたどっていたら、思い出した。日本経済新聞のケースだ。

 日経で不祥事が続いた後、社長だった鶴田卓彦氏はもいったん会長になったが、その後1年あまりで会長から相談役に、最後には相談役からも退かざるを得なくなった。ちなみにこの二人、ともに茨城県出身で早稲田大学の卒業、横綱審議委員会の委員をしていたという共通点がある。
posted by KH at 14:27| Comment(0) | TrackBack(2) | 時事・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

権力者が自らを予見するのは難しい(1 堤義明氏の場合)

 27日の記事「尻馬に乗って元・権力者をたたく」で引用した橋本大二郎氏のブログ「去りゆくドンたち」を読んでいて面白いと思ったのは、堤義明氏が7月の時点で「パリーグの球団合併で、プロ野球は1リーグになる」ことを疑っていない点だ。

 まさに、その同じ日に、奇しくも堤さんからも、電話をもらったのですが、その内容は、プロ野球の再編に絡むもので、「パシフィック・リーグの球団合併は、将来は1リーグ制に向かわざるを得ないので、その際に出来てくる、3軍の選手の受け皿づくりを、四国独立リーグの立ち上げを目指している石毛(元オリックス監督)と、話しあってみてほしい」といったものでした。

 ここで橋本氏が「その同じ日」と言っているのは昨年の7月15日。プロ野球オーナー会議で堤氏が「パシフィック・リーグでもう1組の球団合併が進行中である」と発言したのが8日のことだから、それからまだ1週間しかたっていない時点で、プロ野球は1リーグ10球団になるから、石毛氏の独立リーグを受け皿として想定していたわけだ。

 実際には、彼らが想定したダイエーとロッテの合併が不調に終わる。それだけでなく、選手会の反発、初めてのストライキ、選手会を支援し球団経営者側を非難するファンの急増、楽天の参入、ソフトバンクによるダイエーの買収――などを経て、プロ野球は今季も2リーグ12チーム制を維持することになった。

 おそらく7月の時点で、堤氏はこんなことになるとはつゆほども考えていなかったに違いない。それは堤氏だけでなく、巨人の渡辺恒雄オーナーも、オリックスの宮内義彦オーナーも、「1リーグ制こそ進むべき道」と考えた球団経営者は同じように現在の状況を思いもしなかったはずだ。

 だれでも自らの将来を予想することは難しい。だが権力者は、権力者であるが故に「自分が正しい」と思っていること以外の情報が耳に入りにくくなる。物事が従来通りの枠組みで進んでいる時はそれでも困らないが、昨年のプロ野球界のような「転換点」に差し掛かった時、「都合の悪い情報が耳に届かない」ことが大きなマイナスになる。そういう状況に置かれた権力者が自らを予見することほど、難しいものはない。
posted by KH at 13:33| Comment(0) | TrackBack(1) | 時事・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月27日

尻馬に乗って元・権力者をたたく

 少し前のことになるが、週刊文春の1/27号に「渡部絵美衝撃告白 私を弄んだ堤義明」という記事が出た。その新聞広告を見た時、「なんで、このタイミングで言い出すのだろう?」と思ったのは僕だけだろうか。

 実際の記事を読んでみれば、彼女が堤義明氏から「俺の女になればリンクの一つや二つはやるぞ!」と言われて、新宿プリンスホテルのベッドに押し倒されたことが、彼女の深い傷になっていたことはわかる。自分の権力とカネを持ってすれば、どんな女性でも自分の思い通りになると考えていただろう堤義明氏を弁護しようとも思わない。

 だが西武鉄道の虚偽記載問題で堤氏が経営から退き、世間からボコボコに西武グループ、堤家がたたかれている時になってレイプ未遂問題を持ち出したことに、いささかの違和感を感じるのだ。もし彼女が堤義明健在の時にこのことを告白したら、その勇気をたたえるのだが。

 NHKの海老沢勝二会長にしろ、ダイエー創業者の中内功氏にしろ、そして堤義明氏にしろ日本の経済界などの権力者が権力の座から離れた途端、転げ落ちるように転落してしまうのは、こうした日本人に「尻馬に乗って元・権力者をたたく」という傾向が強いからではないかとも思う。

 権力を持つ時にはお追従を言い、権力者でなくなった途端に、意趣返しをする。こうした行動を取る人は多い。その気持ちがわからないわけではないが、見ていて気持ちのいいものではない。

 そんなことを思っていた時に、高知県知事、橋本大二郎氏のブログで、野球の四国独立リーグを立ち上げた石毛宏典氏の話を読んだ(「去りゆくドンたち」)。
 橋本氏は次のように書いている。

 堤さんの際立ったワンマンぶりは、2人の共通の思い出ですが、石毛さんが、鈴木宗男元議員を最後まで支えた、松山千春さんのことをあげて、「世話になった人たちが、手のひらを返すようなことをするのは見苦しい。こういう時こそ、誰か堤さんを守る人が、出てこないものでしょうか」と言われたのが、ある種スポーツマンらしくて新鮮でした。


 僕は堤義明は個人的に好きではないが、今の時点でこう言い切れる石毛氏は男らしいと思う。
posted by KH at 23:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 時事・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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